「 2017年07月 」一覧

「ふしぎの国のバード」 感想 外国人女性が旅した明治初期の日本

先日『ふしぎの国のバード』1~3巻まで読みました。

読み終わって興味を惹かれたので、マンガ版の原作である『日本奥地紀行』も買ってきて読み始めました(まだ最初の方しか読んでいない)。

 

作品概要
19世紀に実在したイギリスの女性冒険家イザベラ・バードの著書『日本奥地紀行』を下敷きに、主人公のイギリス人女性イザベラ・バードが通訳ガイドの日本人男性・伊藤鶴吉と共に、横浜から蝦夷地へと旅する姿と、旅先で出会った明治初期の日本の文化や人々をフィクションを交えて描く。
史実においてバードが日本を訪れたのは46歳のときだったが、本作においてバードは若い女性として描かれている。(不思議の国のバード-Wikipediaより)

 

原作との最も大きな違いは、マンガ版ではイザベラ・バードが若い女性として描かれている点でしょうかね。

実際のバードさんは46歳のイギリス人のおばさんで、旅行記の中で日本人についてけっこう辛辣なことも書いていますから(当時の欧米人は東洋人を自然に見下しており、高慢さや独善性が鼻につく記述が結構ある)マンガの主人公として、そのまま正確に描いても読者受けもよくないだろうし、あんまり面白くもならないと思います。
(徹底的に調査して原作を精密に再現したマンガや映像作品があったら見てみたいけど、そういう作品は制作するのが大変な割には、地味で受けが悪い)。

 

「ふしぎの国のバード」は概ね原作に沿っていて、原作の記述に基づいてストーリーが展開していますが、原作にない描写もかなり盛られているので、あくまで「原作の旅行記を基にした創作(フィクション)」といったスタンスのマンガ化になっていると思います。

イザベラ・バードも、通訳兼ガイド役の「伊藤鶴吉」も、現代のマンガ的に馴染みやすいキャラクターとして描かれており、

イザベラ・バードは「好奇心が強くておっちょこちょいだけど、明るく優しい日本好きの外人のお姉さん」といった感じ。
(なんかTV番組「YOUは何しに日本へ?」とかに出てくる面白外人みたいな)。

伊藤鶴吉は「無口で不愛想だけど、勤勉で頼りになる優秀な若者」という感じで、なんか少女漫画に出てくる「やれやれ系」のクールなイケメンキャラみたいになっています。(何でもできる有能な従者)。

 

要するに、当時のリアルな人物像をそのまま忠実に描くというより、バードさんは現代の「日本大好きな外人さん」的な旅行者のようだし、伊藤(イト)は現代の落ち着いた(ドライな)若者風で、現代のマンガ読者が感情移入しやすいキャラになっているように思いました。

イザベラ・バードが「ふしぎの国」(140年前の日本の奥地)を旅することが、現代の読者にとっても「ふしぎの国」を旅しているように感じさせるような作りになっており、感情移入しやすいキャラクターに改編することで、マンガ的に楽しく、読みやすい作品になっていると思いました。

 

失われた文明の世界にタイムスリップ

 

「日光から北の方へと進んでいくほど

明治維新前の生活がそのまま残っていると聞いて……

時を遡っていくような旅がしたいと……

そして、最北の地”蝦夷ヶ島”

そこで古代のまま暮らしているという

文字を持たない人々

彼らに会いたいのです」

 

蝦夷(北海道)に行き「アイヌ」の人々に会うことが目的の旅。

著名な冒険家ですから、安全な主要街道や船で直接北海道まで行くのでは面白くない。

明治11年までにはすでに多くの外国人(欧米人)が日本を旅行しているので、他の人がまだ足を踏み入れたことが無い「未踏のルート」を通って北海道に行かなくては、冒険家として旅行記を書く意味がない。

そのためバードは街道・宿場町が整備されている太平洋側のルートではなく、日本海側のルート、特に地図に載っていないような裏街道をあえて選び、外国人が足を踏み入れたことが無いであろう日本の「奥地」を抜けて旅を続けようとしていました。

蝦夷(北海道)が目的地の旅ですが、とりあえず3巻までは「新潟」までたどり着いたところまででした。

外国船の港「横浜」からスタートし、3巻で以下のようなルートで新潟までたどり着いていました。
東京(江戸)→粕壁(春日部)→日光→二荒山温泉→会津道→津川→阿賀野川→新潟

 

イギリス人の女性が旅する「ふしぎの国」だけど、読んでいるうちに読者である自分にとっても「ふしぎの国」を旅しているように思えてくる(タイムスリップの旅のような)興味深く、不思議な面白さがあります。

各地の地名も現在と同じで、日光東照宮とか杉並木など現在とほぼ変わらない風景も多々出てくるのですが、その道すがらの140年前の日本の風景が、いろいろ面白い発見であふれていて興味を惹かれます。

 

江戸時代から続く習慣がまだ残っていて、当時の日本人の多くがまだ髷を結っているのもビジュアル的になんか面白いですね。
西洋から新しい文物が流れ込む一方で、まだ江戸以前の名残りも多く残されていて、和洋折衷の「ふしぎの国」の不思議な人々の姿になっています。(それだけ現在の自分が欧米式の生活スタイルにどっぷり慣れているということですが)。

ふしぎな髪形(ちょん髷)、人力車の車夫の背中一面のカラフルな刺青、東北奥地の土着・呪術的な風習、外国人が珍しくて集まってくる好奇心旺盛な野次馬たち(障子紙に穴をあけて大勢が覗いてくるのが怖い)、男女混浴が普通だったり、などなど。

外人(西洋人)の女性が、江戸時代のままのような日本の田舎の農村を旅しているシチュエーションが、余計に「ふしぎの国」の不思議な姿を浮かび上がらせている効果を生んでいるんでしょうかね。

あとマンガの演出的に大きな特徴になっているのが、旅の途中に出会う現地の日本人の言葉が崩れた文字になっていて読者には、その日本人が「何をしゃべっているのか分からない」ことになっています。(通訳の伊藤を介してしか日本人が何を言っているのか理解できない)。

140年前だから言葉もそんなに違わないと思うのですが(方言が強いぐらい?)バードさん視点で描かれているために、現地の日本人が何を言っているのか分からなくなっているので、読者も自分が暮らしている日本なのに、言葉が通じない異国を旅しているような不思議な効果を生んでいます。(通訳の伊藤だけが頼り)。

 

まだ先が長そうで、4巻がいつ出るのか分かりませんが続きが楽しみです。