「夢で見たあの子のために」 第6話 感想

先日「夢で見たあの子のために」 第6話を読みました。

以下ネタバレ注意

感想

今回は冒頭から、5歳の頃の「千里」と双子の兄「一登」の思い出が語られていました。

山の中に捨てられていた廃車を「隠れ家(基地)」にしたり。
その基地から見える遠くの送電鉄塔を目指して小さな冒険に出たり。

今回は二人の名前に込められた意味も語られていて、
兄の「一登」は「一番高いところに行けるように」という意味、
弟の「千里」は「一番遠くへ行けるように」という意味で名付けられたとのこと。

両親は子供(双子)への関心が薄く、親父にはよく殴られていましたが、そんな親にしてはいい名前を付けてくれたという感じ。

これはつまり、二人が一緒なら「どこにでも行ける」「何だってできる」ということで、
双子ならではの「アイデンティティー」というか、まさに「二人で一人」の関係性だったようです。

ただの双子の場合でも普通の兄弟と比べたら結びつきが強いと思うのですが、この二人の場合は「視覚・感覚の共有」までしているし、家族と言っても両親は子供に無関心だったので、なおさら幼い双子の関係性が唯一無二の強い結びつきになっていたようです。

二人でいる状態が完璧であればあるほど、事件によって「二人で一人」の関係性が引き裂かれる(アイデンティティーの崩壊?)が千里(双子の生き残り)にどんな影響を与えるのか、ということがテーマになっているのかなと思いました。

第3話の回想シーンでは、感覚を共有している千里が「一登が死んだ」(犯人に殺された)とはっきり言っているので兄「一登」は、本当に死んでしまっているようです。
(死亡シーンがはっきり描かれているわけではないので、若干まだ生きているかも?という感じもしないでもないのですが・・・)

第3話では、視覚を共有した後、頭部に衝撃を受け「3日間」意識不明で眠り続けていた千里。
目が覚めた時には、一登の死を確信しており、「ずっといっしょだとおもっていたのに、おれだけいきのこっちゃった」と言っていました。

最後の感覚共有を経て、兄の死を確信した後、生き残った千里もまるで別人のように変わっていました。
兄一登と一緒なら「どこにでも行ける。何でもできる」と思っていた幸福な幼年期は犯人の暴力的な事件によって強制終了。
(兄の死という疑似的な死を経ることで、それまでの自分も死んでしまったような状態?)

「二人で一人」の双子の片割れが欠けて(奪われて)、アイデンティティーが崩壊した状態だと思うのですが、
事件の後、兄がいなくなった空白を埋めていったのは、犯人への「恐怖」と「憎悪」。そしてそれらを克服するために、「復讐」(一登を殺した犯人を殺すこと)を自分の生きる目標に決めていました。

ところで、今回双子が力を合わせて山の上の鉄塔を目指す冒険のエピソードが語られていましたが、双子と言っても微妙に性格も役割も違っていた様子。(高いところを目指す兄の一登と、遠いところを目指す弟千里の関係性)。
兄の一登は、割と知性派というか、あそこを目指そうという方向性を示す役割。弟の千里はどちらかというとパワータイプ? というか、目標を決めたらひたすら前に突き進む推進力のような存在だったようです。

進む方向を示す司令塔のような兄一登を失った後の千里ですが、行動力はあるものの、突き進む方向性を間違えているような・・・?
「復讐」という目標にたどり着くために、中学頃からカツアゲという手段で他人から金を奪っているのですが、どうも目的も手段も何か他にないのか? とういう、かなり道を踏み外している感じがしますね・・・。

しかもカツアゲの方法も迷走している(屈折している)というか。
「奪り返し屋」(取り返し屋)という方法で他人から金を奪っているのですが、よりによって犯人と同じような犯罪行為を踏襲してしまうというのは、どこか奇妙に屈折した感じがします。

第5話では、幼馴染の「恵南」が大事にしていた本のページが半分破られて奪われていたのを取り返してあげるなど、大事なものを奪う人間に対する怒りを持っていたはずの千里なのですが・・・
悪友たちを使って誰かから金を奪わせ、それを自作自演で「奪われたものを取り返す」芝居を打って、金を稼いでいました。
(誰かから金を奪いつつ、それでいてそれを「取り返す」役を演じるという、自己欺瞞)。

自分が捕まらないために「奪り返し屋」という方法を考えたとのことですが、結局は「本職」の「板倉」君に拉致されて、今までため込んだ金を全て奪い返されそうな状況に陥っているし。

仲間の悪友(瀬島)を人質に取られて、脅迫される千里。
仲間を助けるために今まで貯め込んできた金を要求されるという選択を迫られていました。

仲間をとるか金(「復讐」のための資金)を取るのか・・・? 千里の選択の行方が気になる終わり方でした。
(そもそも悪友たちを「仲間」だと思っているのかどうかも分からないですけど)。

双子が出てくる作品

今回の第6話では、双子の関係性が語られていましたので、興味を引かれたので、双子が出てくる他の作品についていくつか上げて考えてみようと思います。

双子って割といろんなマンガや映画に出てきていますが、なんとなく主役としてよりサブキャラで出てくることが多いかなという印象。

バトル系やスポーツ系のマンガだと、「スカイラブハリケーン!」みたいな双子ならではのコンビネーション技で襲い掛かってくるケースが多いようなイメージ。

昔NHKの朝ドラで『ふたりっ子』という作品もやっていましたね(子役で三倉茉奈・佳奈が出演していた)。
俳優やタレント、スポーツ選手など、各分野で活躍している双子・コンビも結構いるようです。

『タッチ』

双子が主人公のマンガ・アニメではあだち充先生の『タッチ』がもっとも有名な作品といっていいでしょうかね。

双子だけど性格がかなり違っていて弟は優等生で野球部のヒーローで、兄はチャランポランなダメ兄貴という感じでした。

それが弟が交通事故で突然死んでしまって、兄貴が弟の代わり(役割・夢を引き継いで)甲子園を目指すというスポーツ&ラブコメマンガの名作でしたね。

『スター・ウォーズ』シリーズ

意外に忘れがちですが「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカーとレイア姫も双子でしたね。

子供の頃TVで「スター・ウォーズ」を見ていて、突然ルークとレイア姫が双子(兄妹)だったという話が出てきたので、「全然顔が似てないじゃない!?」となんだか納得できなかったのですが、二卵性双生児だから顔も似てないし、性別も男女別で問題ないわけですね。(子供の頃は一卵性と二卵性の違いが分かってなかった)。

最強の敵であるダース・ベイダーが、実は主人公の父親だったというのも子供の頃わりとがっかりした記憶があります。
(スケールが小さい話になったような気がした)。

『ブラックラグーン』

▲アニメ版『BLACK LAGOON』#15より

広江礼威先生原作の『ブラックラグーン』では、主人公ではないですが「双子編」で「ヘンゼルとグレーテル」という双子の兄姉が出てきていましたね。

上に貼った画像はアニメ版「ブラックラグーン」15話EDで双子が並んで立っている場面。アニメ版の監督は去年(16年)公開された映画『この世界の片隅に』が大ヒットした片渕須直監督でした。

この15話の特殊EDで双子が海辺に並んで光に包まれていく場面は、悲惨な結末と相まって非常に印象深いものがあります。

最近も再放送されていたりアマゾンプライムビデオで見れるようになっていたので、久しぶりに再見したのですが、さすが映画「この世界の片隅に」を完成させた片渕監督といいますか・・・映像の力に思わず圧倒されるものがありますね。

この「ブラックラグーン」に出てくる双子は性別も役割も違うように見えるのですが、頻繁に入れ替わっており、ほとんど同一人物のような双子の関係として描かれているようでした。

『僕だけがいない街』


▲『僕だけがいない街』5巻より

『夢で見たあの子のために』作者の三部けい先生の前作『僕だけがいない街』。

双子が出てくるわけでは無いのですが、実は「双子」要素がある作品だったのではないか? と思うんですよね。

主人公と小学生編のヒロインが性格が「似た者同士」で「誕生日が同じ」という設定になっていたので、メタ的な解釈ですが、実は「双子」のような関係性を暗示していたのではないか?・・・と思ったんですけど(どうなんでしょうかね)。

「僕街」では、微妙に暗示する程度だった「双子」の関係性ですが、今作「夢で見たあの子のために」では、ずばり主人公を双子にしているので、もしかすると「僕街」の頃から作者の三部先生は「双子」のモチーフに興味があった・・・? という気がしなくもないですね。

上に貼った画像は「僕街」5巻の扉絵ですが、なんか少し「ブラックラグーン」15話の双子の後ろ姿と似ているような・・・。

たまたま構図が似ているだけだと思いますが、もしかするとオマージュだったり? という可能性もなくはないかなと思ったんですけどどうなんでしょうかね。

最近発売された「夢で見たあの子のために」1巻の表紙は双子の兄弟一登と千里がジャンケンをしている場面になっていました。

双子なので、知能も体力も同じだと思うのですが、意外に性格には違いがあったりするものなんでしょうか。

ジャンケンをすると、いつも兄の一登が勝っていたようです。

ジャンケンはコイントスなんかと違って運だけではなく相手の心理を読むことでかなり勝率が変わってきますからね。

やはり兄の方が弟より知性的な性格だったんでしょうかね。

兄の一登は本当にに死んでしまっていて、今後回想シーン以外では登場することは無いのかどうか。

千里の復讐がどんな方向に向かって行くのかなど、今後の展開が楽しみです。








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